2016年7月2日土曜日

Electro house回顧録1




-In the summer of 2006 the Klaxons spawned nu rave, but the real youth subculture of the mid-00s was the music that DJs played after bands had finished: blog house.-
via http://www.factmag.com/2016/06/16/30-best-blog-house-tracks/

少し前の記事ですが、海外音楽サイトFactが、所謂エレクトロハウスを振り返る特集記事を掲載しまして、それがちょうどその時代を生きてきた自分と致しましては、思うことがあったので、今回はその特集に触れながら、エレクトロ黄金期を振り返っていこうと思います。

Factが特集しているのは海外では"Blog House"と呼ばれるものです。これは端的に説明するなら、この2006年〜2009年の3年ほどの間に世界的に広がりを見せたSNSの先駆者である"Myspace"を中心に作品を発表していたエレクトロ系のアーティスト達の曲で、今も現存する”Hype Machine”というキュレーションサイトで人気を集めていた曲をひっくるめていう呼称のひとつです。(日本だとこのあたりは一般的にはエレクトロハウスと呼ばれているものです。 )



2006年の夏にKlaxonsが提唱した"Nu Rave"は、既存の音楽メディアはもちろん取り上げたのですが、これを世界的に有名にした一番の原動力は先述の"Myspace"です。その後いつの間にか"Nu Rave" という言葉はあまり見かけることはなくなり、いつの間にかこの手のものも"Electro"という言葉に統一されていきました。

Factに書かれていることで面白いと思った点のひとつは、「00年代中期のユースサブカルチャーの真のトレンドは、"Nu Rave"バンドの演奏が終わったあとでDJがプレイした音楽だった」と指摘した点です。そして、その音楽とはつまり「Blog House / ネット上で人気を集めたエレクトロハウス」なのです。

Blog Houseとは?
では、一体「Blog House」って一体なのことなのか?ということを説明しますと、先ほども書いたようにこの当時、Myspace上で人気を集めたエレクトロ系アーティストが制作した曲で、それが”Hype Machine”上で人気を集めた、バズった曲のことを指します。

”Hype Machine”は、世界中の人気音楽ブログをキュレーションするサイトで、そこにアクセスして、例えば「Justice」とサーチボックスに打ち込めば、Justiceに関連することを書いているブログの一覧が表示され、ユーザーはその中から好きなブログにアクセスができます。

その当時の”Hype Machine”の人気の理由は、色々なブログにアクセスして、そのブログが紹介している音源を無料でダウンロードできるというものです。これは特にDJをしている人間からは人気を集める理由となりました。なにしろ、当時の流行の音源を無料でゲットできるのですから。

ただ、これもFactが指摘している点ですが、この「Blog House」音源のほとんどは、音質が悪いです。MP3で言えば128kbpsとかのものもザラ。しかもコピーにコピーを重ねているものも多くあったので、さらに音質は劣化しているものもしばしば(笑)。ただ、そのあたりは、DLする側は結構スルーしてきた点でもあると思います。

その理由のひとつはこれまでと違いCDJが普及したこと、それとPCDJが徐々にクラブの現場に現れ出してきた時代で、昔と違い、DJ mixの基本スキルがなくても、家にテクニクスのタンテがなくても初心者が「DJになれる時代の夜明け」みたいな時代だったこともあったからです。

そして、ブログの運営者側も人気ブログになるために、やはり内容、音源ともに人気有名ブログのコピーを繰り返します(笑)。また、この辺の構図も非常に面白い関係性のもと出来上がっていました。

作り手は人気ブログを”Hype Machine”で見つけて、音源を送ります。そしてそれがブロガーに気に入られたらもちろん、ブログ上で紹介してくれますので、その掲載の事実を自身のMyspaceで宣伝。そうすれば、ファンベースが拡大。名前が通れば通るほど、ブログにピックアップされやすくなる。その結果、さらなるファンを獲得。いつかは有名レーベルからリリースを!という野望を持つわけです。

そういったことから、特にエレクトロファン、クリエーター、ブロガーから、このBlog Houseの化身とも言えるHype Machineは高い注目度、人気を集めるサイトでした。そしてこれが、簡潔なBlog Houseの説明です。

Blog Houseの真骨頂
当時の時代を生きてきた中での経験からいうとこのBlog Houseの真骨頂は、知られざる「2巡目、3巡目」のアーティストを発掘する場だったということに尽きます。仮に一巡目を、Justiceらフレンチ・エレクトロ勢、同じくフレンチ勢を中心に世界中からアーティストを見つけてきたKitsune、オーストラリアのModular勢、Boyz Noizeらドイツ勢らとすると、そのフォロワー的アーティストで、おお、これは!というような存在を見つけることができました。



ここでいう「2巡目、3巡目」のアーティストの基準は、個人的には日本ではCDが買えない、もしくはデータリリースのみ、かつ日本のメディアには一切取り上げられない存在という風に定義します。




そう定義すると、Sound of allows、Louis La Roche、Stay Ali、Digikid 84、The Phantom's Revenge、Futurecop!、その他多数は、Myspaceではかなりのフォロワー数を誇っていましたが、日本にはフィジカルに輸入されることはなかったです。しかしながら、この当時のエレクトロ系のDJは、このBlog Houseの人気者については、当然のことながら詳しいかったものです。なにしろ、情報をレコ屋とかではなく、”Hype Machine”で常にチェックしているのですから。



やはりDJたるもの我先にと誰も知らないイケてる曲をかけたいという性がありますので、音質が悪くても、中には気にせずデッキに落とし込む人も相当数いました。よく知人と当時を振り返って言う言葉で、「荒さもまたエレクトロ」というものがあるのですが、一般的にはエレクトロハウスはシンセにガンガンにディストーションをかけて歪ませて、コンプで音圧をパンパンにする、ある意味勢い任せで派手さ重視なところがあり、どうしても荒くなってしまうのですが、この言葉はそれだけでなく、こういったBlog Houseのことも含めて指す言葉だと個人的には考えています。